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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1525号 判決

原告 山岸才二 外一一名

被告 大西健雄 外一名

主文

一  原告に対し

1  被告らは別紙物件目録記載の土地を駐車場として使用してはならない。

2  被告らは別紙物件目録記載の土地上に設置してある別紙図面(一)表示の甲乙間の門扉を撤去せよ。

3  被告らは右撤去後別紙図面(二)のとおり

(1)甲丙間に縦一九センチメートル、横三九センチメートル、厚さ一〇センチメートルのブロツク四〇個を五列八段に、縦一九センチメートル、横三〇センチメートル、厚さ一〇センチメートルのブロツク八個を一列八段に積み上げてブロツク塀を設置し、

(2)丙乙間に、乙点の内側(庭側)地点に片開扉吊元柱(高さ一・六メートル、柱材は縦一〇センチメートル、横一〇センチメートル、厚さ三・二センチメートルの角形鋼管)、丙点の内側(庭側)地点に片開扉戸当柱(高さ一・六メートル、柱材は縦一〇センチメートル、横一〇センチメートル、厚さ三・二センチメートルの角形鋼管)を各設置して、施錠金具付高さ一・四メートル、巾一メートルの片開扉鉄製門扉(枠材四本、帯材二本は、縦七・五センチメートル、横二センチメートル、厚さ一・六ミリメートルの格子材八本は縦五センチメートル、横二センチメートル、厚さ一・六ミリメートルの矩形鋼管であつて、これらを使用して格子型に組んだもの)を蝶番で右元柱に取り付け、且つ、右当柱に施錠できるように設置せよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決のうち前記一の2及び3については仮りに執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

主文第一、二項と同旨、仮執行宣言(但し、主文第一項2及び3につき)

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求の原因

1  原被告らは東京都世田谷区中町五丁目二九番一一号所在の「玉川コーポラス」(以下、本件マンシヨンという)の区分所有者であり、且つ別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という)を含む本件マンシヨンの敷地の共有者である。

2(1)  本件マンシヨン及びその敷地の全購入者は各自売主ニチモプレハブ株式会社との売買契約により一定面積の専有部分の区分所有権並びにその面積割合に応じた敷地の共有持分を取得したが、その際、敷地の一部に設けられた庭及び駐車場について売主が定める専用使用権者の専用を承認した。

(2)  但し、専用使用権者は右売買契約により専用使用部分を定められた目的以外に使用してはならず、結局、全購入者は専用使用権者が右売買契約に定める目的に従つて使用する限りにおいて、その専用使用権を承認しているものである。

(3)  本件土地は被告らのため右売買契約にいうところの専用使用権の設定された庭である。

3  また、本件マンシヨンの各購入に際し、売主ニチモプレハブ株式会社から提示された案どおりに設定された「ニチモコーポラス共同管理規約」によれば共有部分の現状変更については共有者全員の同意を必要とする。そして本件土地は右管理規約にいう共同所有部分である。

4  被告らは本件土地を駐車場として使用することを計画し、昭和四九年七月二七日前記管理規約により組織を義務づけられている「共同管理集会」の臨時総会に本件土地の使用目的の変更及びこれに伴う本件土地上の設置物の改造工事(従来の門を車が出入できるよう広くする工事)について承認を求めてきたが、承認は得られなかつた。

5  ところが被告らは昭和五〇年七月二九日突然ブロツク塀等の取壊しを始め、在宅中の居住者が中止を求めたにもかかわらず、取壊しを了し、更には前記管理集会からのブロツク塀等の修復の要求を無視したうえ、同年六月に駐車場築造工事(別紙図面(一)乙丙間の門扉を車の出入のため甲乙間に拡幅して新たに甲乙間に門扉を設置)を開始し、在宅中の居住者が中止を求めたにもかかわらず右工事を続行して翌日完了した。

6(1)  被告らが本件土地を駐車場として使用することは前記売買契約〔1〕基本条項VIII項及び管理規約八条に違反するから、これら契約及び規約に基いて駐車場としての使用禁止を求める。

(2)  前記管理規約一〇条(1) によると共有者全員の同意がなければ共有部分を変更してはならないものとされているが、被告らの前記工事は共有者全員の同意のない共有部分の変更に該当し規約一〇条(1) に違反する。したがつて被告らは別紙図面(一)記載の甲乙間の門扉を撤去し、撤去後別紙図面(二)のとおり甲丙間にブロツク塀及び丙乙間に従前同様鉄製門扉を設置して原状に復すべき義務がある。

(3)  仮りに右主張が認められないとしても、本件土地上のブロツク塀等の設置物は本件土地の一部を構成する附属施設であるから原告らの共有に属するものであるところ、被告らはブロツク塀等を取壊し、新たな門扉等を設置して本件土地を違法に侵害しているから原告らは所有物妨害排除請求権により妨害の除去(原状回復)を請求することができる。

よつて原告らは被告らに対し請求の趣旨一の1ないし3及び二記載の如き裁判を求める。

二  認否

1  請求の原因1のうち被告ら関係は認めるが、原告らの関係は不知。

2  同2のうち(1) は認め、(2) は否認、(3) は認める。

3  同3及び4は否認する。

4  同5は認める。

5  同6は争う。この点に関する被告らの見解は後記のとおりである。

三  被告らの主張

1  訴外ニチモプレハブ株式会社と被告ら間の売買契約によると専用使用権設定部分は使用目的を「一階建物専有部分付属の庭」とし「定められた目的以外に使用してはならない」と定められている(基本条項〔1〕VIII)。

ところが管理規約八条には「専用使用権者以外の者は専用使用部分を無断で使用してはならない」と規定しているのみで他に専用使用権者の目的外使用について何ら定めていない。したがつて専用使用権者は本件建物の売主に対しては専用使用部分の目的外使用について契約違反の責任を負うことはあつても他の区分所有権者に対し管理規約違反の責任を負わねばならない根拠はない。

2  仮りに管理規約違反の責任を負うとしても、被告らには原告ら主張の如き違反は存しない。すなわち本件土地は元来面積三〇・八八平方メートルの全面芝生を植えた平担地で周辺部分に小樹木が数本植えてあつたところ被告らはその芝生の一部を除去し長方形にコンクリートを打つて駐車場としたもので周辺の樹木も花壇も原状のまま残つており柱、屋根等を備えた車庫様の建造物を建築したわけではない。したがつてコンクリート部分を撤去すれば容易に原状に復するもので庭の一部を駐車場に兼用しているに過ぎないから使用目的を「変更」したことにはならない。

3  原告ら主張の如く本件土地上のブロツク塀、門扉は本件土地の一部を構成する附属施設であつて「共有部分」といわねばならず、規約一〇条の「共用部分」に該当しないから被告らの行為は同条によつて区分所有権者全員の同意を要する事項にはあたらない。また、前記ブロツク塀門扉は被告らの専用使用部分の外廓を構成する施設であるから専用使用権者が目的の範囲内で専用使用に必要な限度で自己の負担において改良もしくは補修工事をすることは専用使用権の行使であつて管理規約一〇条にいう「共用部分の変更」に該当しない。

四  原告らの反論

1  被告らの主張1は争う。売買契約の際に設定された専用使用権と管理規約に定められたそれとは同一内容をもつものであつて管理規約上も被告らには本件土地を庭として使用することのできる専用使用権が認められているに過ぎず、目的外使用について管理規約違反の責を負うのは当然である。

2  同2も争う。本件土地上のブロツク塀門扉等の改造工事は被告らが本件土地を駐車場として使用する目的のもとになしたものであり、且つ本件土地を駐車場として使用しようとすればいつでも使用可能な客観的状況を作出しているものであるから管理規約八条に違反することは明らかである。

3  同3も争う。管理規約上の利用管理については「共有部分」は「共用部分」と同様の取扱いをする構成になつている。したがつてブロツク塀等の設置物の利用管理は管理規約一〇条によつて規制され、同条(1) により共有者全員の同意がなければ、その変更はできない。仮りに改良工事だと解しても同条(1) 但書により共有者の持分四分の三以上の同意を得なければならないものである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求の原因1のうち被告らが本件マンシヨンの区分所有者であり、且つ、本件土地を含む敷地の共有者であること(成立に争のない甲第二号証によると、詳しくは被告らの区分所有部分は七階建本件マンシヨンの一階一〇一号室で被告大西健雄が持分五分の四、被告大西政枝が持分五分の一の割合で共有していることが明らかである)は当事者間に争がなく、原告三竹克己本人尋問の結果(第一回)によれば原告らも同様本件マンシヨンの区分所有者であることが認められる。

二  請求の原因2のうち(1) 及び(3) は当事者間に争がない。そして、いずれも成立に争のない甲第三、第四号証によれば同(2) の事実を認めるに充分である。すなわち訴外ニチモプレハブ株式会社が本件マンシヨンの専有部分を原被告らほかの区分所有権者に売却するに際し、締結した各同様の売買契約書基本条項〔1〕のVIIIによれば「専用使用権の設定」として「パーキングスペース該当部分及び一階建物専有部分附属の庭については専用使用権を設定し、専用使用権者の専用を認めるものとする。但し定められた目的以外に使用してはならない」と規定され、これをうけて〔II〕細則第一一条には「専用使用権の認知」と題して「買主は売買物件のうち、パーキングスペース該当部分並びに一階建物専有部分付属の庭については、売主の指定する専用使用権者の専用を認めるものとする」と定められ、同第一三条には「管理規約の遵守」と題して「買主は共用部分の使用等については、別紙『ニチモコーポラス共同管理規約』を遵守することを確約する」旨定められ、右ニチモコーポラス共同管理規約によると、第八条には「専用使用」と題して「区分所有者全員は不動産売買契約書に基き庭及びパーキングスペースについて専用使用権者の専用を認める。使用権者でない区分所有者は無断でこれを使用してはならない」旨、また、同第一〇条には「共用、共有部分の現状変更又は処分」と題して「(1) 共用部分の変更は共有者全員の同意を必要とする。ただし、共用部分の改良を目的とし、かつ著しく多額の費用を要しないものは、共有者の持分四分の三以上の多数で決することができる。以下省略」旨、さらに同第一一条には「共用部分の損傷に対する責任」と題して「区分所有者が自己の責に帰すべき事由によつて共用部分を損傷した時は、その補修費用の全部を負担しなければならない」旨、同第一二条には「集会の承認を要する行為」と題して「区分所有者は、次の各号に掲げる行為をしようとするときは集会における全員の承認を得なければならない。また実施に際してはニチモプレハブ(株)に照会しその意見を徴するものとする。1専用部分の外観及び建物構造(第一三条第一号に規定する構造部を除く)を変更すること。以下省略」等の定めがなされ、前出三竹供述(第一回)によれば、区分所有者全員は、これらの条項を承認して本件マンシヨン専用部分を購入したことが明らかであるからである。

三  請求の原因3につき、本件土地が前記管理規約にいう共有部分で、その現状変更については共用部分の現状変更と同様共有者全員の同意を必要とすると解されることは、既に前記二において明らかにしたとおりである。

四  請求の原因4は成立に争のない甲第五号証、前出三竹本人の供述から、これを認めるに充分である。なお、成立に争のない乙第一号証、第三号証の一、二、旧門扉の写真であることに争のない乙第二号証の一、新門扉作成後の本件土地の写真であることに争のない同号証の二、三に前出原告三竹克己の供述、原告樋口稔、被告大西政枝の各供述を総合すると、被告らは当初からの本件マンシヨンの入居者ではなく被告大西健雄がニチモプレハブ株式会社の従業員で大阪より転勤して来たため本件マンンヨン建築後二年位して同社が前居住者から買戻していた本件マンシヨン一〇一号室を購入して入居するにいたつたこと、ところが旧門扉はからくさ模様の素通しの鉄製のため外から内部がまるみえであり、近くにゴミ集積所があつて犬や猫などが残滓を庭に持ち込んだり、糞をしたりして不快だし掃除にも困ること、物売や浮浪者が無断で庭に入つてきたりして不用心である等の理由で被告らは昭和四八年末頃から門扉の改造をしたい意向を洩していたが、昭和四九年三月頃になつて他に駐車場として借りていたところが、借りられなくなつたため本件土地の一部にコンクリートをべた打ちして駐車場とし、車の出入のため旧門扉を取壊して開口部を広くしたいと思い話題にしたところ必しも賛成が得られなかつたため、被告らに好意的な他の居住者の助言に従い正式に役員会を経て同年七月の臨時管理集会に提案したところ、委任状提出者の中には相当数の賛成者があつたが、出席者は全員反対し、結局、共有者全員の同意は得られず提案は否決されたこと、その後被告ら特に妻である被告大西政枝は右に納得しがたいとして居住者にアンケートを求めたり、夫妻ともども管理会宛に質問書や調査結果を出したりしていたが遂に昭和五〇年に入つて次項の如く改造工事を強行するにいたつたこと、以上の如き経過であることが認められ、他にこれに反する証拠はない。

五  請求の原因5は当事者間に争がない。

六  以上の事実によると被告らの強行した駐車場築造工事は本件マンシヨンの売買契約〔1〕基本条項VIIIならびに管理規約八条、一〇条に違反するものとして被告らにはこれを旧に復すべき契約上の義務ありといわざるを得ない。

1  被告らは右工事は売買契約の右条項に違反することはあつても、管理規約八条違反として他の区分所有者に責を負うべきいわれはないし、使用目的の「変更」にも当らないと主張するが、本件マンシヨンの区分所有者は売買契約ならびにこれを受けた管理規約を承認して入居していること前記二に明らかにしたとおりであるし、前記工事の主たる使用目的が駐車場としての利用にあることは現実の工事結果がこれを示しているといわねばならないから、右主張は当を得ないといわねばならない。

2  また、被告らは前記工事は共有部分の現状変更にはなつても管理規約一〇条にいう共有者全員の同意を要する共用部分の現状変更には当らないし、専用使用権の範囲内における改良工事であつて規約違反の責を負うべきいわれはないとも主張するが、管理規約一〇条にいう共有者全員の同意を要する現状変更の中には共有部分のそれも含まれると解されること(前記二、三)、のみならず規約一二条には専用部分の外観の変更には管理集会における全員の承認を要する旨規定されているが、その承認はなかつたこと等を勘案すれば右主張もまた失当といわざるを得ない。

3  被告大西政枝の供述によれば、被告らが執拗に前記工事の正当性を主張する背後には、専用使用権の認められている本件土地の一部に自己の費用で従前よりも外観上立派な門扉を作ることは誰にも迷惑をかけることではないし、かえつて共有者全員の利益であるのに、管理規約を楯に一部のものが反対するのは専用使用部分をもたない連中のやつかみであり、為にする反対として納得しがたいというところにあることが窺われ、前出原告三竹克己の供述中には、専用使用の庭を駐車場として利用することが許されるとすれば、処分価格が急騰して莫大な利益がある故そのようなことは許されない趣旨の供述部分がみられ、被告らの納得しがたいとする点も一概に否定し去ることのできない面がないではない。しかし飜つて考えてみれば、本件マンシヨンのみならず一般に高層住宅とは縦割長屋ともいうべき共同住宅であるから居住者一人の利便のため、勝手にその欲することをなさしめるとすれば、いくら他に迷惑をかけないとしても、共同生活全体の秩序が維持できないことは見易い道理であり、一旦、秩序が乱されるとなれば吾も吾もと秩序の破壊が行われて平穏な生活の安定は望み得べくもないことも容易に推測される。売買契約、これをうけた管理規約にそれほどまでの厳格な要件を定めなくともの感がなきにしもあらずの規定が置かれているのは、ただに右共同生活の秩序の維持に主たる目的が置かれているものと解され、入居者はこれらを承認して入居している以上、時に納得しがたいと思う面があつても、これに従う義務のあることは云うまでもない。前出原告三竹本人の供述によると、本件マンシヨンにおいて、従前、ベランダ部分に一室を作つたことがあつたので、規約違反を理由にその撤去をさせたことがあつたり、ベランダに芝生を植えたいとの希望を規約に基いて容れなかつたり、ベランダの手すりの塗りかえをやりたいとの申出に対し、全体として統一するよう居住者全員の負担でそれを行つたような事実が窺われるがこれらもすべて前記の如き共同生活の秩序を維持するという実質的な理由に基くものといわねばならない。したがつて前記工事を強行した被告らは規約違反の責を免れず、原状回復の義務を負うとする以外にない。

4  なお、原状回復について前出甲第五号証記載の現状図と原告らが原状回復工事として求めている別紙図面(二)とを対比すると、完全な復元ではないことが明らかであるが、前出原告三竹克己本人の供述(第二回)によると、目的を達するため出来るだけ費用を節約して被告らに迷惑をかけないようにする趣旨で一部被告らのなした前記工事を利用して別紙図面(二)記載の限度でその回復を求める趣旨であることが認められるので原状回復義務の範囲内で別紙図面(二)の工事をなすよう求める原告らの請求部分は認容するのに妨げはない。

七  以上の次第で、その余の争点に言及するまでもなく、原告らの請求はすべて理由があるから、これらを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 麻上正信)

物件目録

東京都世田谷区中町五丁目二九番一

宅地 一〇四九・一二平方メートル

のうち  三〇・八八平方メートル

別紙添付図面(一)のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、イの各点を順次直線で結んだ線内の部分

別紙添付図面(二)省略

図面(一)〈省略〉

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